2026年8月、リースバックを利用している方にとって気になるニュースが報じられました。
内容は、
「売却後も住み続けられると思ってリースバックを利用したところ、家賃を月6万円から8万円にすると言われた。値上げを断ったら退去しなければならないのか?」
というものです。
また、国民生活センターも2026年8月4日、「自宅の『リースバック』トラブルにご注意!」という注意喚起を公表しています。
その中では、築40年のマンションを約1,000万円で売却し、月額7万円でリースバックを利用していた方が、6年後に約10万円への家賃値上げを求められたという相談事例が紹介されています。
月7万円から10万円ですから、年間では36万円の負担増です。
特に年金収入を中心に生活されている方にとっては、非常に大きな問題です。
株式会社ヤマトハウステックでも「リースバック安心館」を運営し、実際にリースバック物件の査定・買取り・賃貸を行っています。
今回のニュースを見て、リースバックを検討されている方にぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは、
「家賃を値上げされたら拒否できるのか」という問題と、「拒否したら退去しなければならないのか」という問題は、法律上は分けて考える必要がある
ということです。
今回は少し踏み込んで、法律と実際の不動産取引の両方から解説します。
そもそもリースバックは「売買契約+賃貸借契約」
まず、ここを理解することが非常に重要です。
リースバックという名前の特別な契約が一つ存在しているわけではありません。
一般的な住宅のリースバックでは、
①自宅を売却する「不動産売買契約」
と、
②売却した住宅を借りる「建物賃貸借契約」
という二つの法律関係が組み合わされています。
売買が完了すれば、その住宅の所有者は買主へ変わります。
元所有者は、
「自分の家に住んでいる人」
から、
「貸主から住宅を借りている賃借人」
へ立場が変わります。
ここが通常の不動産売却との大きな違いです。
したがって、売却価格だけ確認して契約するのでは不十分です。
むしろ長期間住む予定の方ほど、
売却後に締結する賃貸借契約の内容が重要になります。
家賃6万円を8万円にすると言われたら、従わなければならない?
結論から言えば、
貸主から通知されたというだけで、自動的に翌月から8万円になるわけではありません。
ただし、
「自分が同意しなければ永久に6万円のまま」
とも限りません。
ここが今回の問題で最も誤解されやすいところです。
借地借家法32条には「借賃増減請求権」がある
建物賃貸借については、借地借家法第32条に借賃増減請求権が定められています。
例えば、
- 土地や建物に対する租税その他の負担が増減した
- 土地や建物の価格その他の経済事情が変動した
- 近隣の同種物件の賃料と比較して現在の家賃が不相当になった
といった事情によって現在の家賃が不相当になった場合、貸主は将来に向かって家賃の増額を請求できる場合があります。
つまり、
「契約書に月6万円と書いてあるから、一生6万円」
とは必ずしも言えません。
一方で、
「貸主が8万円と言ったから明日から8万円」
というものでもありません。
値上げ額に争いがある場合には、最終的には調停や訴訟などを通じて相当な賃料が判断される可能性があります。
では、値上げを拒否したら退去しなければならない?
ここも非常に重要です。
単に家賃の増額に同意しなかったという理由だけで、直ちに退去しなければならないとは通常考えません。
特に「普通借家契約」であれば、貸主側から契約更新を拒絶したり解約を申し入れたりするには、借地借家法上の「正当事由」が問題になります。
そのため、
「8万円に同意しないなら来月出ていってください」
というほど単純な仕組みではありません。
ただし注意していただきたいのが、
普通借家契約なのか、定期借家契約なのか
です。
ここによって話が大きく変わります。
リースバックでは「普通借家」と「定期借家」の違いが非常に重要
リースバックを検討する際、弊社が非常に重要だと考えているのが賃貸借契約の種類です。
普通借家契約
普通借家契約の場合、契約期間が満了したからといって貸主が自由に更新を拒絶できるわけではありません。
貸主側から更新を拒絶する場合などには、借地借家法上の正当事由が問題となります。
そのため、
長期間住み続けたい方にとっては、居住継続という意味で重要なポイントになります。
定期借家契約
一方、定期借家契約は考え方が違います。
例えば、
「契約期間3年間」
という定期借家契約を締結した場合、原則として3年間の期間満了によって契約が終了します。
その後も住み続けるためには「更新」ではなく、貸主と改めて「再契約」をする必要があります。
そして、
貸主に再契約する義務が当然にあるわけではありません。
国土交通省のリースバックに関するガイドラインでも、リースバックでは定期借家契約が利用されることが多い傾向があり、再契約には貸主・借主双方の合意が必要で、必ず再契約できるわけではないことが注意点として示されています。
「家賃値上げ」と「契約終了」を混同しない
今回のようなニュースを見る際には、
①家賃を上げることができるか
と、
②借主に退去を求めることができるか
を分けて考えることが重要です。
例えば普通借家契約で、
「家賃7万円から10万円への値上げには納得できません」
と言ったことだけを理由として、
「では契約終了です。退去してください」
と簡単に処理できるわけではありません。
一方、定期借家契約の場合には、家賃値上げ問題とは別に、契約期間満了による終了という問題があります。
したがって、
「リースバックならずっと住めます」
という説明だけで契約してはいけません。
確認するべきなのは、
「法律上、どのような契約によって、いつまで住めるのか」
です。
家賃値上げを求められたときに絶対にやってはいけないこと
もう一つ注意したいのが、
「値上げには納得できないから、家賃を払わない」
という対応です。
これはおすすめできません。
賃料増額について争いがあることと、賃料を支払う義務そのものは別問題だからです。
家賃を支払わない状態を続ければ、今度は「賃料滞納」という別の契約問題が発生します。
場合によっては、賃貸借契約を解除される原因を自ら作ってしまう可能性があります。
値上げに納得できない場合は、
値上げを拒否することと、家賃そのものを支払わないことを混同しない
ことが重要です。
実際に増額請求を受けて争いになっている場合には、支払うべき金額や供託を含めた対応について、弁護士などの法律専門家へ相談することをおすすめします。
「6万円→8万円」は妥当なのか?
では、今回のように月6万円だった家賃を8万円にすると言われた場合、2万円の値上げは妥当なのでしょうか。
これは、
「2万円だから高すぎる」「33%アップだから無効」
と一律に判断できるものではありません。
例えば、
契約当初の周辺賃料が6万円程度だったものが現在は8万円程度になっているのか。
固定資産税などの負担がどの程度変化したのか。
建物の築年数や状態はどうなのか。
同じ地域・同じ程度の面積・築年数の賃貸物件はいくらなのか。
契約締結から何年経過しているのか。
契約書に賃料改定についてどのような規定があるのか。
こうした事情を総合的に見ていくことになります。
ですから、値上げ通知を受けたときにまずするべきなのは、
「なぜこの金額なのですか?」と根拠を確認すること
です。
リースバック事業者として、今回の事例で最も気になったこと
今回のニュースを見て、弊社がリースバック事業者として改めて感じたことがあります。
それは、
リースバック会社を「買取価格の高さ」だけで選ぶのは危険だということです。
リースバックの比較サイトなどを見ると、
「最高○社一括査定」
「一番高く買ってくれる会社を探しましょう」
という見せ方もあります。
通常の不動産売却であれば、高く買ってくれる会社を探すことは非常に重要です。
しかしリースバックは少し違います。
なぜなら、
売却した翌日から、その会社との賃貸借関係が始まるからです。
200万円高く売れても、本当に得とは限らない
例えば、
A社
売却価格1,200万円
家賃10万円
B社
売却価格1,000万円
家賃7万円
だったとします。
売却時だけを見れば、A社の方が200万円高く買ってくれます。
ところが10年間住んだ場合、
A社
10万円×12ヶ月×10年
=1,200万円
B社
7万円×12ヶ月×10年
=840万円
家賃だけで360万円の差になります。
もちろん、実際のリースバックでは固定資産税負担が所有者側へ移ることや修繕負担、売却価格、居住期間、買戻し条件などもあるため、家賃総額だけで損得を決めることも適切ではありません。
しかし少なくとも、
「200万円高く買ってくれる=200万円条件が良い」
とは言えないことが分かると思います。
高く買い取ってもらうことより、家賃を下げた方がよい人もいる
これは弊社でも実際の査定時によく考える部分です。
リースバック査定では、
「できるだけ高く買ってほしい」
という希望をいただくことが当然あります。
しかし、
「この家にはあと10年住みたい」
という方であれば、弊社から、
買取価格を少し下げて、その分毎月の家賃を抑える方法
をご提案することもあります。
反対に、
「2~3年後には子どもの家へ引っ越す予定」
「近い将来、施設への入居を考えている」
という方であれば、多少家賃が高くなっても、現在受け取る売却代金を優先するという考え方もあります。
リースバックに、
万人に共通する最適な買取価格と家賃はありません。
「何年間住むのか」によって最適解が変わるからです。
70代の方なら「10年間の総支払額」まで計算してほしい
特に60代、70代の方からリースバックの相談を受けた場合、弊社として重要だと考えているのは、
現在払える家賃かどうかだけで判断しないこと
です。
例えば月8万円なら、
1年間 96万円
5年間 480万円
10年間 960万円
です。
月10万円なら、
1年間 120万円
5年間 600万円
10年間 1,200万円
になります。
仮に自宅を1,000万円で売却しても、月10万円で10年間住めば、単純な家賃総額だけで1,200万円になります。
もちろん、
「だからリースバックは損」
という意味ではありません。
所有していれば固定資産税や建物修繕費などが発生しますし、売却によってまとまった資金を早期に確保できるメリットもあります。
大切なのは、
売却価格と家賃を別々に見ないことです。
買戻しを考えている人は、さらに注意が必要
リースバックでは、
「将来、家を買い戻したい」
という相談も多くあります。
この場合はさらに確認項目が増えます。
単に、
「将来買い戻せます」
という口頭説明だけでは不十分です。
少なくとも、
いくらで買い戻せるのか
いつまで買い戻せるのか
買戻価格は固定なのか
諸費用は別途必要なのか
第三者へ売却された場合はどうなるのか
などを確認しておく必要があります。
国土交通省のガイドブックでも、買戻しを検討する場合には「いくらで」などの条件を契約前に確認することが重要とされています。
自宅が第三者へ売却される可能性も確認する
もう一つ、あまり説明されていない重要なポイントがあります。
リースバック後の住宅は、元所有者のものではありません。
したがって、契約内容などにもよりますが、所有者がその不動産を第三者へ売却する可能性があります。
実際、国土交通省が公表しているリースバック事業に関する調査でも、「利用者が知らない間に物件が第三者に転売されていた」という問題が指摘されています。
そのため、
「今契約している会社が信用できるから大丈夫」
だけではなく、
所有者が将来変わった場合に賃貸借契約がどうなるのか
という視点も持っておく必要があります。
契約前に最低限チェックしたい10項目
弊社がリースバックを検討される方に確認していただきたいのは、少なくとも次の10項目です。
- 一般売却した場合の相場はいくらか
- リースバックでの買取価格はいくらか
- 毎月の家賃はいくらか
- 普通借家契約か定期借家契約か
- 契約期間は何年間か
- 家賃改定についてどのような取り決めになっているか
- 修繕費・設備故障を誰が負担するのか
- 更新または再契約の条件はどうなっているか
- 買戻しができる場合、その価格と期限はいくらか
- 5年・10年住んだ場合の家賃総額はいくらになるか
特に重要なのは、
「売却価格」「月額家賃」「契約期間」を一つのセットとして比較すること
です。
ヤマトハウステックの見解|リースバック自体が問題なのではなく「契約設計」が重要
今回のニュースや国民生活センターの注意喚起を見ると、
「リースバックは怖い」
と感じる方もいるかもしれません。
しかし弊社では、リースバックという仕組み自体に問題があるとは考えていません。
住宅ローンや借入を整理したい。
税金などの支払いをしたい。
老後資金を確保したい。
事業資金を作りたい。
子どもの学校の関係で引っ越したくない。
ペットがいるため転居先を見つけにくい。
こうした方にとって、自宅に住みながら資金を確保できるリースバックが有効な選択肢になることはあります。
問題になるのは、
「売った後のことを十分理解しないまま契約してしまうこと」
ではないでしょうか。
「ずっと住めます」ではなく「どういう契約だから住めるのか」を確認する
リースバックの営業で、
「売却後もそのまま住めます」
と言われた場合には、もう一歩踏み込んで聞いてみてください。
「普通借家ですか?定期借家ですか?」
「定期借家なら何年間ですか?」
「再契約は保証されていますか?」
「家賃改定はどうなっていますか?」
「10年間住んだ場合、総額でいくら払いますか?」
「将来買い戻す場合はいくらですか?」
こうした質問に対して明確な説明があるかどうかは、リースバック会社を選ぶ際の一つの判断材料になると思います。
まとめ|リースバックは「売却価格」ではなく「売却後の生活」まで比較する
今回の家賃値上げ問題から学ぶべきことは、
「リースバックでは家賃が上がるから危険」
という単純な話ではありません。
賃貸借である以上、一定の場合には借地借家法32条による賃料増額請求が問題になることがあります。
一方で、貸主が一方的に通知した金額に必ず従わなければならないわけでもなく、値上げに同意しなかっただけで直ちに退去しなければならないとも限りません。
そして退去について考える場合には、
普通借家契約なのか、定期借家契約なのか
という別の重要な問題があります。
だからこそ、リースバックでは、
「いくらで売れるか」だけではなく「売った後、どのような条件で暮らすのか」まで確認してから契約する。
これが非常に重要です。
株式会社ヤマトハウステックが運営する「リースバック安心館」では、大阪・兵庫を中心に関西エリアでリースバックのご相談を承っています。
弊社では、単純に「いくらで買い取れるか」だけではなく、
「何年間住みたいのか」
「毎月いくらなら無理なく支払えるのか」
「将来的に買い戻したいのか」
「売却価格と家賃のどちらを優先するのか」
といったご希望を確認したうえで、条件を検討することを大切にしています。
また、他社からリースバックの査定を受けて、
「この家賃は高くない?」
「普通借家と定期借家、どちらなの?」
「この買戻し条件は妥当?」
と疑問を感じている段階でも、契約前であれば比較検討することができます。
リースバックは、一度自宅を売却すれば簡単に元へ戻せる取引ではありません。
だからこそ、
買取価格だけではなく、5年後・10年後の生活まで数字にしてから判断する。
私たちは、それがリースバックを安心して利用するために最も大切なことの一つだと考えています。
※本記事はリースバックおよび建物賃貸借に関する一般的な情報提供を目的としたもので、個別案件についての法律相談・法的判断を行うものではありません。実際の賃料増額請求、契約解除、明渡し等について争いがある場合は、契約書等を持参のうえ弁護士等の専門家へご相談ください。
