宅地造成等規制法とは?2022年改正で変わった規制内容と罰則を完全解説

はじめに

宅地造成等規制法は、1961年に制定された、宅地造成に伴う崖崩れや土砂流出による災害を防止するための基幹法律です。高度経済成長期に都市化が急速に進むなか、技術や安全対策が不十分なまま斜面造成が行われ、多くの災害が発生したことを受けて整備されました。

法律制定の背景

戦後から高度経済成長期にかけて都市部への人口流入が急増し、住宅用地確保のため山間地・傾斜地の開発が活発化しました。しかし、安全管理が追いつかなかったため、全国で造成地崩壊・土砂流出事故が相次ぎ、人的・経済的被害が大きな社会問題となりました。

この状況を受け、危険な造成行為を規制する統一的制度として1961年に宅地造成等規制法が制定され、擁壁や排水施設などの技術基準が法的に整備されました。

法律の目的

宅地造成等規制法の目的は明確で、

「造成に起因する災害を防ぎ、国民の生命・財産を守ること」

です。

そのために、法律では以下を規定しています。
• 危険性が高い区域の指定(規制区域)
• 一定規模以上の造成工事に対する許可制度
• 技術基準(擁壁・排水など)の設定
• 工事完了後の検査制度
• 既存造成地への改善命令制度

区域指定から施工管理・完成後の維持管理まで、造成地の安全を総合的に担保する仕組みが整えられています。

現代における法律の重要性

豪雨災害の激甚化や、太陽光発電施設など多様な土地利用の拡大により、従来より広範囲な安全規制が必要となっています。

この背景から、2022年には法律が抜本改正され、名称も

「宅地造成及び特定盛土等規制法」

へ変更されました。

従来の宅地造成だけでなく、宅地以外の盛土・造成行為も包括的に規制できるようになった点が大きな特徴です。

法改正の歴史とポイント

1961年 制定

制定時の柱は次の2点でした。
• 宅地造成工事規制区域の指定制度
• 規制区域内における造成工事の許可制度

擁壁・排水施設など安全基準、工事の完了検査制度が導入され、無秩序な造成を防ぐ基盤が整備されました。

2006年 改正(造成宅地防災区域の創設)

新潟県中越地震などを受け、既存造成地の危険性が浮き彫りになったことが背景です。

主な改正点
• 造成宅地防災区域制度の導入
• 老朽化した擁壁や排水施設の改善命令が可能に
• 技術基準の厳格化

新規造成だけでなく、古い造成宅地のリスク対策に踏み込んだ改正でした。

2022年 大幅改正(名称変更・適用範囲の拡大)

熱海市の土石流災害(2021年)など、宅地以外の盛土地帯での重大災害が契機。

重要ポイント
• 法律名を**「宅地造成及び特定盛土等規制法」**へ改称
• 宅地以外の盛土(太陽光発電施設造成・工場造成など)も規制対象
• 新制度「特定盛土等規制区域」の創設
• 土地所有者に「安全維持義務」を明文化
• 罰則の大幅強化(無許可工事は法人1億円以下の罰金など)

規制の範囲と罰則の両面で、非常に実効性の高い制度に生まれ変わりました。

規制区域制度の全体像

① 宅地造成工事規制区域

もっとも基本的な規制区域で、
造成に伴う災害のおそれが大きい区域
を都道府県知事等が指定します。

許可が必要となる工事
• 切土:高さ2m超
• 盛土:高さ1m超
• 切盛土合計高さ2m超
• 面積500㎡超の造成

申請には工事計画書・構造計算書・地質調査書等が必要で、厳格な技術審査があります。

② 特定盛土等規制区域(2022年創設)

宅地以外の土地利用まで規制対象を拡大した新しい制度。

規制対象例
• 太陽光発電施設の造成
• 産業用地造成
• 廃棄物処理施設造成
• 農地転用を伴う盛土

特徴
• 工事規模に応じて「許可」または「届出」を使い分け
• 落石・土砂流出の恐れがある場合は容赦なく規制
• 兵庫県では令和7年4月1日から全面運用予定

宅地造成法の“抜け穴”となっていた多用途造成を網羅的にカバーする仕組みです。

③ 造成宅地防災区域(2006年創設)

既存造成地のうち、
地震・豪雨などで特に危険性が高いエリア
が指定されます。

所有者には以下の義務が発生します。
• 擁壁の補修・作り替え
• 排水設備の改善
• 改善命令への従属義務

従わない場合は代執行(費用は所有者負担)もあり、実効性の高い制度です。

許可・届出制度

許可制度

規制区域内で大規模な造成を行う際は許可が必須です。

提出書類例
• 工事計画書
• 設計図書
• 構造計算書
• 地質調査結果
• 現況測量図

審査後も、中間検査・完了検査があり、無許可着工は重い罰則があります。

届出制度(2022年以降の拡大)

特定盛土等規制区域では、小規模工事も届出対象。
• 盛土高さ0.5〜1m程度
• 一定規模の土地造成
• 軽微でも災害リスクがある場合は行政指導対象

小規模だからといって見逃されない制度となっています。

技術基準と安全対策

擁壁の構造基準

• 転倒・滑動・支持力の安全率の確保
• 鉄筋コンクリート強度・配筋基準
• 背面排水の確実な設置
• 地震時安全性の確保(耐震性能強化)

擁壁2m以下でも基準適合が必須です。

排水施設基準

豪雨の激甚化に対応し、排水基準も以前より厳格化。
• 側溝・暗渠
• 地下排水(地下水低下対策)
• 雨水流下能力の強化
• 沈砂池・集水桝の適正配置
• 完成後の維持管理義務

排水が不十分だと擁壁破壊や地盤崩壊につながるため、非常に重要な項目です。

地盤改良と施工管理

• 土質調査に基づく工法選定
• 軟弱地盤・液状化地盤への対応
• 盛土材料の品質管理
• 締固め管理
• 安全監視体制(技術者配置・点検)

施工中の管理不良が原因の災害が多いため、施工段階の管理も厳格です。

罰則と法的責任

無許可工事の罰則(2022年改正で強化)

• 個人:3年以下の懲役または300万円以下の罰金
• 法人:1億円以下の罰金

停止命令を無視すればさらに重い処分の対象となります。

改善命令違反

• 2年以下の懲役または100万円以下の罰金
• 法人は最大3,000万円以下
• 代執行あり(費用は所有者負担)

土地所有者の継続的責任(2022年明文化)

造成完了後も、
• 安全な状態の維持
• 定期点検・補修
• 危険を放置した場合の刑事・民事責任

が明確に義務付けられました。

中古住宅を購入した場合でも、
購入者が責任を引き継ぐ点が非常に重要 です。

まとめ

宅地造成等規制法は、宅地造成に起因する災害を防ぐための中核法律であり、社会情勢や災害経験を踏まえて進化してきました。

特に2022年改正により、
• 宅地以外の盛土まで包括的に規制
• 区域制度の拡大
• 土地所有者責務の明確化
• 罰則強化

が行われ、現代の災害リスクに対応できる体制となっています。

今後も豪雨災害の激甚化や都市拡大が続く中で、
土地所有者・開発事業者・施工業者が法制度を理解し、適切な安全管理を行うことが不可欠 です。

ヤマトハウステックでも、造成地の安全性調査やリフォーム・売却相談などを通じ、地域の安全な住環境づくりに貢献していきます。