手付解除とは?不動産売買で知っておくべき基本知識と手続きの完全ガイド【大阪・関西の不動産会社が解説】

はじめに

不動産売買において、契約を締結した後にさまざまな事情により契約を解除したいという状況は珍しくありません。
そんなときに重要な役割を果たすのが 「手付解除」 という制度です。

手付解除は、不動産売買契約において売主・買主双方に契約解除の柔軟性を与える仕組みであり、適切に理解しておくことで、安全で円滑な不動産取引を実現することができます。

大阪・関西エリアで売却やリースバックのご相談を多くいただくヤマトハウステックにも、

「手付金を払った後でも、事情が変わったら解除できますか?」
「リースバックの売買契約でも手付解除は使えるの?」

といったご質問がよく寄せられます。

本記事では、そうした疑問にお答えしながら、「手付解除」の基本から実務上の注意点まで、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。

手付解除の社会的意義

手付解除制度は、不動産取引における当事者の権利保護と取引の安全性確保を目的として設けられた重要な制度です。

  • 契約締結後に
  • 経済状況の変化
  • 転勤・介護・相続など家族事情の変化
  • 購入予定だった物件への不安

などが生じた場合でも、一定の条件のもとで契約をやり直す余地を残してくれます。

特に高額な不動産取引では、契約締結後に状況が変わることも多く、手付解除は当事者にとって大きな「安全弁」と言えます。

また、手付解除制度があることで、

  • 契約解除のルールが明確
  • トラブルになりにくい(損害賠償をめぐる紛争を避けやすい)

といった効果があり、不動産市場全体の流動性向上にもつながっています。大阪の中古マンションや戸建ての売買でも、手付解除を前提に契約設計されるケースが一般的です。

法的根拠と制度の特徴

民法上の手付解除のルール

手付解除の根拠は、民法第557条 にあります。条文の要旨は次のとおりです。

  • 買主は、交付した手付金を放棄することで契約を解除できる
  • 売主は、受け取った手付金の 倍額を現実に提供 することで契約を解除できる
  • ただし、相手方が契約の履行に着手した後は、手付による解除はできない

また、民法と判例の解釈上、

手付の性質が明確に定められていない場合、その手付は「解約手付」であると推定される

とされています。

宅建業法による特則(宅建業者が売主の場合)

売主が宅地建物取引業者(いわゆる不動産会社)の場合には、宅地建物取引業法 による買主保護のルールが加わります。

主なポイントは次の2つです。

  1. 手付金額の上限
     宅建業者が受け取れる手付金は、売買代金の20%(2割)を超えてはならない。
  2. 手付の性質(解約手付性の付与)
     宅建業者が自ら売主となる売買契約では、契約内容にかかわらず、その手付は必ず「解約手付」として扱われる(解約手付性の付与)。

これにより、一般消費者である買主が過大な手付金を求められたり、解約手付でないと主張されて解除を拒まれたりするリスクを防いでいます。

大阪・関西でよくある「業者買取」「リースバックの売買契約」などでも、この宅建業法上のルールが基本となります。

手付解除と他の解除手段との違い

債務不履行による解除との違い

  • 債務不履行解除
     相手方に契約違反(代金未払い・引渡し遅延など)がある場合に行う解除
     原則として、相手方に対する損害賠償請求が可能
  • 手付解除
     相手方の違反がなくても、理由を問わず一方的に解除できる
     その代わり、
     - 買主:手付金を放棄
     - 売主:手付金の倍額を返還

という 経済的負担 を負う

このように、手付解除は「ノーペナルティではないが、理由を問わず解除できる権利」と整理できます。

合意解除との違い

  • 合意解除
     売主・買主双方の合意で契約を終了させる
     条件(違約金・精算方法など)も双方の交渉次第
  • 手付解除
     一方が手付放棄・倍返しの条件を履行すれば、相手方の同意がなくても解除できる

実務上、大阪の現場でも「まずは合意解除の可能性を話し合い、それが難しければ手付解除・債務不履行解除を検討する」という順番で検討することが多いです。

手付金の三つの性格

手付金には、一般に次の3つの性格があると言われています。

  1. 証約手付
     契約が成立したことを確認・証明する機能
  2. 違約手付
     契約違反があった場合の違約金・損害賠償の予定としての機能
  3. 解約手付
     手付放棄・倍返しにより契約解除ができるようにする機能(本記事で扱う「手付解除」はこれ)

実務の不動産売買では、特に定めがない場合は解約手付と推定されます。さらに、宅建業者が売主となる場合には、宅建業法により必ず解約手付として扱われます。

手付解除の基本的な仕組み

手付解除の基本はシンプルです。

  • 買主側から解除:支払った手付金を放棄して解除(いわゆる「手付流し」)
  • 売主側から解除:受け取った手付金を返還し、さらに同額を上乗せして支払うことで解除(いわゆる「手付倍返し」)

ここで重要なのが、次の2点です。

  1. 理由を問わない解除が可能
     経済事情の変化
     家族の反対
     他に良い物件が見つかった
     など、相手方に非がなくても行使できる
  2. 経済的負担がある
     その負担が「安易な解除を抑えるブレーキ」として機能し、契約の安定に寄与している

大阪で自宅の売却を行う場合でも、「どうしても事情が変わる可能性があるので、ギリギリまで手付解除できるようにしておきたい」といったご相談は珍しくありません。

履行の着手と手付解除の関係

手付解除ができるのは、相手方が契約の履行に着手するまで に限られます。

履行の着手とは?

判例・通説では、履行の着手とは、

客観的に外部から認識できる形で、契約の履行行為の一部を行った状態

とされています。

売主側の例

  • 所有権移転登記の申請
  • 売買の前提となる測量・境界確定を実際に実施した場合
  • 解体を約した建物について、実際に解体工事に着手した場合
  • 中間金等を受領した場合 など

単なる準備行為(登記簿の取得、見積もり依頼など)だけでは履行の着手と判断されないことも多いですが、個別事情により判断が分かれることがあります。

買主側の例

  • 売買代金の一部(内金・中間金)を支払った
  • 金銭消費貸借契約(住宅ローン契約)を締結した
  • リフォーム工事を具体的に発注した など

「住宅ローンの事前審査」や「本審査の申込み」だけでは、通常は準備行為として扱われることが多いですが、契約実務や裁判例によって評価が分かれる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。

手付解除期日の設定とその意義

履行の着手かどうかの判断は難しく、トラブルになりやすいため、実務ではほぼ必ず 「手付解除期日」 を契約書の中で定めます。

  • 一般的には
     - 決済予定日の1週間~1か月前
     - 融資承認期限を考慮した日付
     などを目安に設定されることが多いです。

手付解除期日を設けることで、

  • 当事者が「いつまでなら手付解除できるか」を明確に把握できる
  • 期日を過ぎれば手付解除はできず、他の解除(債務不履行解除・合意解除など)を検討することになる

という、わかりやすいルールになります。

大阪・関西の取引でも、
「〇年〇月〇日までは、民法第557条の手付解除権を行使することができる」
といった条文が売買契約書に盛り込まれているケースがほとんどです。

手付解除の手続きと注意点

1. 手付解除の通知方法

手付解除を行う場合は、まず 相手方への意思表示 が必要です。

  • 口頭でも法的には有効
  • ただし、後日の紛争防止のため、内容証明郵便(配達証明付き) など、証拠が残る方法が強く推奨されます

通知書には、少なくとも次の内容を記載します。

  • 契約の特定(契約日、物件所在地、当事者名など)
  • 手付解除を行う旨の明確な意思表示
  • 手付金の扱い(放棄/倍返し)と支払方法
  • 解除の効力発生日 など

仲介の不動産会社が入っている場合は、不動産会社にも同時に通知し、具体的な段取りは仲介会社を通して調整するのがスムーズです。

2. 金銭の授受と処理

  • 買主からの手付解除
     - 既に支払った手付金は返ってこない(放棄)
     - 手付金以外に支払った費用(融資事務手数料など)は、原則として返還されないのが一般的
  • 売主からの手付解除(手付倍返し)
     - 受領した手付金を返還
     - さらに同額を上乗せして支払う

支払方法は、銀行振込など記録が残る方法が望ましく、領収書・振込明細等をきちんと保管しておきましょう。

3. 契約書・特約事項の確認

手付解除の前には、必ず売買契約書を読み返すことが重要です。

  • 手付金額・手付解除期日
  • 住宅ローン特約の有無・内容
  • 解除時の費用負担に関する特約
  • 違約金条項 など

特約によっては、
「内金支払い後は手付解除できない」
「この解除は手付解除ではなく違約解除とみなす」
といった規定が置かれている場合もあり、慎重な確認が欠かせません。

売主・買主それぞれの手付解除

買主による手付解除の典型ケース

買主が手付解除を検討するケースとしては、例えば次のようなものがあります。

  • 住宅ローンの条件が悪化し、返済に不安が出てきた
  • 転勤・転職・介護など、ライフプランの変化
  • 大阪・関西圏内で、より条件の良い物件が見つかった
  • 家族・親族から強い反対が出た など

ただし、住宅ローン特約がある場合は、安易に手付解除を選ばない方がよいケースもあります。

  • 所定の期日までに融資承認が得られない場合、契約は「白紙解除」となり、手付金は返還される のが一般的な住宅ローン特約の内容だからです。

手付解除を選ぶか、住宅ローン特約による解除を待つかは、金融機関の判断状況・スケジュールを踏まえて慎重に検討する必要があります。

売主による手付解除の典型ケース

売主側から手付倍返しを検討する例としては、

  • 他により高い金額で購入希望者が現れた
  • 買主の資金計画に不安があり、決済の実行が難しそう
  • 売却計画自体の見直し(賃貸運用・リースバックへの転換など)

といったケースが挙げられます。

ただし、売主の手付倍返しは負担が大きいため、

  • 倍返しにかかるコスト
  • 新しい買主との契約で得られる追加利益
  • 将来の空室リスクや賃貸運営のコスト(リースバックを含む)

を総合的に比較検討する必要があります。

手付金額の制限と保全措置(宅建業法)

宅地建物取引業者(不動産会社)が売主となる場合、宅建業法により次のようなルールがあります。

1. 手付金額の制限(20%ルール)

宅建業者が受領できる手付金額は、売買代金の20%(2割)を超えてはならない

大阪の新築・中古問わず、業者売主の物件ではこのルールが必ず前提になります。

2. 手付金等の保全措置

業者売主が買主(一般消費者)から手付金や中間金等を受領する場合、一定額を超えると、

  • 銀行等の保証
  • 保証保険
  • 手付金等保管制度

などの 「保全措置」 を講じることが義務付けられています。

保全措置が必要となる目安は次のとおりです(自ら売主・買主は一般消費者の場合)。

  • 未完成物件
     - 代金の5%を超え、かつ1000万円を超える手付金等
  • 完成物件
     - 代金の10%を超え、かつ1000万円を超える手付金等

逆に言えば、

  • 未完成:5%以下かつ1000万円以下
  • 完成:10%以下かつ1000万円以下

であれば保全措置は不要という整理になります。

税務上の取り扱い(概要)

税務の扱いは個別事情に左右されるため、ここではごく大まかなポイントだけ触れておきます。

  • 買主が手付放棄で解除した場合
     - 居住用の自宅購入で放棄した手付金は、通常は所得税の必要経費としては認められません。
     - 事業用不動産の場合は、事業所得の経費として扱えるケースもあります。
  • 売主が手付倍返しをした場合
     - 支払った倍返し分は、原則として不動産の譲渡所得を計算する際の「譲渡費用」として扱われるケースが多いとされています。

また、手付解除により契約が解除された場合、要件を満たせば 印紙税の還付 を受けられる可能性があります(期限や手続きに注意が必要です)。

いずれも詳細はケースバイケースのため、高額な取引や事業用の取引では、税理士等の専門家に個別に相談することをおすすめします。

仲介業者(不動産会社)の役割と仲介手数料

大阪・関西での不動産売買の多くは、ヤマトハウステックのような宅建業者が「仲介」に入って進みます。

仲介業者の主な役割

  • 契約前に手付金・手付解除の仕組みをわかりやすく説明する
  • 契約書・重要事項説明書に適切に反映させる
  • 手付解除が行われる場合、売主・買主の間に立って通知・金銭の授受・書面のやり取りなどを調整する

手付解除と仲介手数料の関係

仲介手数料については、

  • 原則として、売買契約が有効に成立した時点で発生する成功報酬
  • その後に手付解除で契約が解除されても、法律上は請求権自体は残るとされるのが一般的な解釈

とされていますが、実務では、

  • 媒介契約書で「手付解除の場合の扱い」を定めている
  • 当事者の合意で、全部または一部を返還する
  • リースバックなど将来の取引を見据えて柔軟に対応する

といった運用も多く見られます。

したがって、手付解除を検討する際は、仲介会社と事前に「仲介手数料をどう扱うか」を確認しておくことが大切 です。

まとめ

手付解除は、不動産売買契約において売主・買主双方に 「やむを得ない事情が生じたときの出口」 を用意する、大変重要な制度です。

  • 手付放棄(買主)
  • 手付倍返し(売主)

という経済的負担を伴う一方で、理由を問わず契約解除ができるため、取引の柔軟性と安全性を両立させています。

一方で、

  • 履行の着手の有無
  • 手付解除期日の経過
  • 住宅ローン特約・違約金条項・特約の内容
  • 宅建業法による手付金額の制限・保全措置
  • 税務・仲介手数料の扱い

など、注意すべきポイントも多く、自己判断だけで進めるとトラブルにつながる可能性もあります。

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